第四話 天界の神々

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 ゼウスは神々の様子を静かに見守った後、厳かに口を開いた。 「人間にはわしの希望を託したのじゃ。故に放ってはおけぬ」  騒めく神々。 「希望? 解せぬ。全てを手に入れ、全て己の思い通りに周りを動かせる圧倒的な力を持ちながら、これ以上何が欲しいというのだ!」  ポセイドンはゼウスに詰め寄る。瞬時に間に割って入るアレース。ポセイドンは直ぐに引き下がる。暫く重苦しい沈黙が続いた。 「……完璧過ぎると退屈になるもの。その最たる例でしょう」  冷たく冴え冴えとした声が響き渡る。これまでゼウスの傍らに控え、一言の発しなかった美しい女が一歩前に踏み出す。 「ヘラ……」  ゼウスは妻の名を呟いた。その女は真珠色の肌を持ち、女らしい体つきを純白と金色のパール色に輝く古代ギリシャ風のドレスに包み込んでいる。吸い込まれそうなほど深い漆黒の瞳、長く艶やかな黒髪が赤い唇の艶めかしさをとり引き立てている。最高神の妻である彼女は、ゼウスの次に神々を統率する権限を持っていた。 「完璧と言えばここオリンポスも平和そのもの。不満や争い事などあろう筈もございません。そうですわね、アフロディーテ」  ヘラは淡々とした口調で述べつつ、最後に名指しで左斜め先の女神を見据えた。口調こそ落ち着いているが、反論の余地を許さない威圧感を漂わせる。 「……はい、勿論です」  口惜しさを滲ませつつ、その美しいマホガニー色の眉を微かにしかめ、肯定の意を表す美しい乙女。零れそうなほ程の大きな瞳は澄み切ったターコイズブルーだ。乳白色の肌は肉感的な肉体をそこはかとなく演出する。薄桃色の薔薇の花びらを思わせるドレスを身にまとい、マホガニー色の豊かな長い髪は海のように波打つ。愛と美を司る女神アフディーテである。彼女はその名の通り、自由奔放び神々との恋を楽しんでいたが、ヘラだけには逆らえない。よってヘラの夫であるゼウスにも近づけないでいた。 「という事で、人間とやらについてはゼウス様にお任せする事としましょう。以上、解散!」  ヘラは声高らかに宣言した。その一声で会議は解散となった。
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