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「ゼウス様、こちらにいらしたのですね」
不意に、やや高めの凛とした声が響き渡る。ゼウスは振り向いた。
「ミカエル(神に似たもの)か?」
ミカエルと呼ばれた青年は、金色の長い睫毛に縁どられた、ロイヤルブルーの澄み切った瞳を、真っ直ぐゼウスに向けた。その高貴な深い青は、さながら最高ランクのサファイアのようだ。金色に波打つ豊かな髪は肩の下まで伸ばされ、まるで太陽の輝きを思わせる。大理石のようにきめ細やかな美しい肌。端正な顔立ち。そして白く輝く大きな翼そのを背に持っていた。
炎を思わせる緋色に輝く甲冑に身を包み、同色のローブを纏っている。腰に差されている純白の剣にはルーン文字が刻まれ、気高く咲く白い百合を連想させる。
ミカエルが何かを言い出す前に、ゼウスはこう問いかけた。
「ミカエルよ、ワシは間違っていたのか?」
ミカエルは、先ほどまでゼウスが見下ろしていたものを見つめながら応じる。
「ゼウス様、今日も地球を御覧になっていたのですね」
彼はそれには直接答えず、更に
「人間たちは、幸せではないのか?」
とミカエルに続けた。ミカエルは焦る。そして
「ゼウス様、何をおっしゃるのです! あなたはこの宇宙を創られた創造主! 全知全能の神なのです!あなたの迷いは、この宇宙をも迷わせる! 滅多な事をおっしゃるものではありません!!!」
と叫ぶようにして答えた。ゼウスは、悲しげな眼差しをミカエルに向ける。
「では、何故人間界は争いが絶えぬ?」
と静かに問いかけた。ミカエルは、一瞬言葉につまる。
「天界は今日も平和です! 私は、この剣を未だ使った事はありません!」
と叫んだ。
「フッフッフッフッ……笑止な!」
突如として、嘲り笑う声が響く。
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