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電波を通して尚、彼女の世界は強烈だった。出てはくれるが、基本的には無言。質問も会話もこちらからで、僕の言葉の意図が読めない時だけ質問が返ってくる。その他は、短い文。もはや単語。
そして落ち着きはらった、透き通るような声。耳からびりびりと入り込んでくる白黒に、僕は恍惚とした。
「名字、はじめて聞いたけど凄く似合ってるね」
「そう」
「携帯、壊れたの?」
「違う」
「……教えたくなかったの?」
「どうして?」
「もしかして、携帯持ってない?」
「うん」
彼女の返事はどれも素っ気なかったが、拒否されているのではなかったという事実に胸が弾む。ほぼ相槌ではあるが、会話を続けてくれるのが嬉しい。
思えばこの時。僕は既に逃げられないまでに、彼女の世界に取り込まれてしまっていたんだ。切り離そうとすれば、自らを傷付けなければならないほどに。僕は確実に、彼女の中へと踏み込んでいった。
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