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第三章 山吹の花
最悪だ。ぐちゃりと気持ちの悪い感触を、足の裏で踏みしめた。降りしきる騒音、重たい空気。街中には色とりどりの花が陰鬱な雰囲気と共に咲き乱れており、それは僕たちも同じであった。
せめて彼女を僕の傘に入れ、自らの肩を濡らし歩くことが出来たのならまだ良かったのかもしれない。ただ、この豪雨の中傘を持って来ない馬鹿はいないだろう。ましてや彼女が持ってきていないはずもなく、大きな傘の間隔を空けて歩いていた。あわよくば相合い傘、なんて考えていた今朝の自分を殴ってやりたい。
ちらりと隣を覗き見る。僕の横を歩いているのは本当に彼女なのだろうか。顔が見えにくいのもあり、彼女と並んで歩くということに非現実感も覚えるが、紛れもなくそこに彼女の世界は溢れていた。
今日のコートは白色。そして薄灰色のパンツが彼女の上品さを余すことなく演出している。
ふと、彼女を透かして映すショーウィンドウに貼られる、ポスターが目に入った。化粧品が売っているそのお店のポスターは、鮮やかな赤の口紅を施したかの有名な女優が、これでもかと言わんばかりの笑顔を振り撒いている。黄色がかったきめ細やかな肌に、桃色がふんわりと頬を彩っていて。笑ったり、泣いたり、ころころと色を変えるその女優が、僕は好きだった。
彼女の方が、あの口紅は似合いそうだ。そう感じた瞬間に、チラリと値段を確認することを忘れなかった。
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