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砂糖と、ミルクを少々。焦げ茶色と白色が少しずつ混じり合う。ほんのりと舌で広がる甘さと、鼻腔をくすぐる香りが好きだ。彼女と一緒にいるからかもしれないが、ここのコーヒーはとても上品な味わいに思える。
一方目の前の彼女は、店員さんが運んできたコーヒーを、ブラックのままその薄い赤色に吸い込ませていった。飲み物にまで彼女の世界は浸透しているのか。そんなことを思いながら話し掛ける。
「美味しいね」
「……少し、熱い」
唇をすぼめるようにしてコーヒーに息を吹き掛ける彼女に、唐突に「女の子」を感じた。まるで、普通の女の子みたい。この日、僕は初めて君の顔を直視した。
「なあ、これってさ。デートだと思っていいのかな」
カチャリと、カップをソーサーに置く音が店内に響き渡る。震える指先が、追うようにカタカタとカップを揺らした。
「デートの、定義は」
いつもと同じ、真摯な瞳に見据えられる。吸い込まれて、落ちてしまいそう。後退りしたくなるような、そんな視線。
でも、ここで逃げては、ダメだ。
「僕は、君が好きで。君に、付き合って欲しいんだ」
「付き合う……あなたは私に、何を求めてるの?」
一瞬、不埒な考えが頭に浮かび、慌ててコーヒーを口に運ぶ。じんわりと苦味を舌で確めるようにして、冷静に考えを巡らせる。
「……今日みたいに、時々一緒に出掛けたり、食事をしたり。色んな話をして、お互いのことを知っていって。それで」
「それで?」
触れあったりするんだ。その言葉を喉元で飲み込む。彼女の世界に触れるのは、恐れ多いような気がした。それでも、君のことを知れば知るほど、触れたくなって、どうしようもなくなってくるんだ。
「手を、繋いだり」
恐る恐る、君の顔を覗き見る。どう見ても表情は変わっていないはずなのに、何故か笑っているように感じた。
「それくらいなら、私にも出来るよ」
君の白い指が、赤みがかった僕の手を、包み込む。その暖かさが、僕を彼女の世界に取り込んでくれるような気がした。
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