第三章 山吹の花

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 二回目のデートは、彼女を食事へ誘った。基本的に誘えばイエスの彼女だが、日取りを決める際に何度か断られたので、どうやら何にでも頷いてしまう訳ではないらしい。デートも、お付き合いも、嫌がられてはいない。それだけで十分だった。  この日のために探した、彼女に似合う落ち着いた雰囲気のお店。ほんの少し背伸びした。そのわりにお財布には優しい。 「コート、こっちにかけようか」 「うん」  灰色のコートの裾は、重たく色が変わっている。店内の床は所々濡れていて、緊張で上手く動かない脚をとられてしまうのではとひやひやした。  席について、メニューを眺める。彼女は、小綺麗に座ったまま動かない。 「お酒とか、飲む?」 「飲めない」 「わかった」  お酒は飲まない、もしくは飲んでも嗜む程度。そんな勝手な印象を抱いていたが、崩れなくて良かった。 「注文、俺のと同じでいい?」 「うん」  ボロネーゼを二つ。飲み物は、ホットレモンティーにしてみた。僕の好みというよりは、彼女の反応が見たかったから。反応なんて、ないようなものではあるけれど。  まずレモンティー、次いでパスタ。冷えた身体に染み入りそうな湯気がたっている。 「熱そうだから、気を付けてね」  僕がそう言うと、彼女は無言で首を縦に振り、レモンの香り漂うカップを美しい顔に近付ける。そのまま吸い込ませようとして、その手を止めた。少し考えるようにして、息を吹き掛けてその水面を波たたせる。  かわいい。  何一つ表情は変わっていないが、こんなに可愛らしい、愛しいと思う仕草は他にないだろう。こんな姿が見れるならば、寒い冬も捨てたものではないなと思う。  彼女の変わらぬ顔色に表情や個性を見るのが、気が付けば楽しみになっていた。
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