第一章 白黒の彼女

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 でも、このままでは。  何も変わらないではないか。  彼女に、近付きたい。  その深い黒色を、もっと近くで。  僕の時間は、動き出した。僕が無理矢理、動かした。動かなければならない。それは直感であった。ホームを降りると、ちょうど乗るはずであった電車が到着する。が、そんなことは知ったことではない。あの黒を、近くで。あの黒を、はやく。  対岸には、一面に彼女の世界が広がっていた。遠く離れていく電車の音も、激しく地面を叩く水音も、何の意味も為さない。ひたすらな静寂が、そこにはあった。彼女の黒色を引き立たせるかのように、寂れた風景は光を放つ。  これが、彼女の世界。  僕自身も背景の一部となり、光を放っている気さえもする。この世界の主人公は、彼女。僕は脇役だ。  その神々しいとまで言える黒色を、一目、見るために。真っ直ぐに彼女へ近づく。その黒色に吸い込まれるかのように、近づく。迷うことなく……
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