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第二章 淡黄の蕾
何故あんなことを口走ってしまったのか。果たして僕は彼女に恋をしているのか。はたまた彼女に憧れのようなものを抱いているだけなのか。その答えは、僕にもわからなかった。
ただひとつ、これだけははっきりと言える。僕は彼女を、愛している。彼女と、彼女の世界を。それはそれは、焦がれてやまないほどに。
この感情を愛と呼ばず何と言うのかを、僕はまた知らなかった。それほどに僕が無知なだけなのかもしれないが、今になっても答えは見つけられないままだ。
とにもかくにも問題は、既に彼女に愛を伝えてしまったということに他ならない。そしてまた悲しいことに、僕は女性に愛を伝えることに長けている人種ではない。とても自慢できる話ではないが。
「いや、あ、ちがくて。ち、違うわけではないんだけどね。えっと」
瞬く間に顔が熱くなる。一方の彼女は、言われたことを理解しているのか疑問になるほどの涼しい表情だ。
こんな状況でも崩れない深い黒色。どこまでも深い黒色なのに、僕の目には脈打つような赤色として映る。
「私のことを、好き?」
抑揚の抑えられた言葉。透き通るような声。変わらない表情。その全てに、胸が弾む。音にさえも彼女の世界は浸透していた。
思わず息を詰める。心を拐われたかのように、僕は頷いた。
「それで?」
彼女はあくまでも冷静だった。今思えば、それは異常なほどに。
「れ、連絡先を、教えてください」
異常を異常と気がつけないほどに、僕は彼女の世界に陶酔していった。
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