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第0章 あか色
「……ごめんな」
瞳からこぼれ落ちた透明な雫が、頬に飛び散る液体と混じり合う。薄まる、赤、朱、紅。今日は二人にとって何よりも大切な日。そんな日に、僕らは終わりを迎える。
「泣いているの……?」
何度も触れた、彼女の白かった手。震えるその手は、もう一度僕に触れようとして、力尽きた。
「大丈夫、よ。私はきっと、これを望んだの」
愛している、彼女の笑顔。今は滲んでよく見えない。
「本当に、ごめんな」
ぼやける視界を、赤色が支配していく。彼女が大好きな、彼女に一番似合う色。彼女の両目は虚ろで、もう見えているかどうかもわからない。身体を動かす力はなく、首もだらりと項垂れている。
最期に、微かに、声がした――気がした。
「あなたは、――」
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