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「当然師匠に訴えたえ、工房を出る事まで話は行ったらしいが、ロナードがそれを許さず工房の二階に閉じ込めて、無理矢理絵を描かせていたらしい」
「そんな!」
なんて横暴な。自分の欲の為に若い才能を殺すばかりか、無理矢理言うことを聞かせて描かせるなんて。こうして、力のない者は潰れていってしまうのか。
ランバートの体に力が入る。項垂れて震えるミックが不憫でならない。力を貸したい。でも……。
「俺が保護した時には、雪の中に埋もれててな。どうやら雪が降り積もったのをいい事に二階から飛び降りたらしい」
「無茶をする」
「まったくですよ。で、事情を聞いたらこれなんだが……こいつの絵をロナードが横取りした証明ができない。今は俺の知り合いの所に預けてあるんだが、このざまだ」
頭をポリポリとかくウォルシュに、ミックはすまなそうな視線を送っている。
こうして、気を使って生きてきた事がよく伝わるものだった。
「冬のコンクールの絵を、描いていたのか?」
ファウストの問いに僅かに視線を上げたミックが、静かに頷く。そして、震えながらも口を開いた。
「コンクールなら、僕の絵がちゃんと評価されると思って…」
そう言ったミックはそれ以上は口を開けなかった。また、大粒の涙が溢れてきている。悔しそうに唇を噛みしめる姿はあまりに痛々しかった。
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