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不意に抱き込まれて、気持ちが緩む。背中に腕を回して、ギュッとローブを握った。
「憂い顔のお前とでは、楽しめないだろ」
「ごめん!」
「違う。ダメだなんて言わない。弱い者を放っておけないお前の性格は分かっているし、それでこそだと思っている。だから、躊躇わず手を伸ばせ」
「え?」
髪を梳かれながら甘い声が許しを口にする。怒られたばかりなのに、良いのだろうか。見上げれば、頷かれた。
「騎士の根底には、弱い者を守る気持ちが必要だ。使命も誇りも大事だが、その底には他者への優しさがなければいけない。俺は確かにお前を叱ったが、その根底を捨てて欲しくはない」
「でも、旅行が潰れる…」
「また来ればいいことだ。それに、思い出深い旅行になる」
甘やかすみたいに額に唇が触れる。くすぐったいその感覚に僅かに震えれば、ファウストは「くくっ」と楽しそうに笑った。
「後味悪くなるよりは、気持ち良く終わろう」
「ごめ……有り難う」
ファウストは穏やかに微笑み、チュッと啄むようにキスをする。ランバートは優しいキスに甘えていた。大きなこの人の腕の中で甘えていられた。久しぶりな気がして、あまりに心地よかった。
「その代わり、どこに行くか、何をするか、誰といるかを俺に伝えてくれ。それなら何かあっても、俺は対応できる」
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