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頭を一つ撫でて、ファウストはウォルシュと一緒に中へと入っていく。おそらく、無言の圧力が取調室全体にかかるのだろう。ご愁傷様だ。
ランバートはミックのいるだろう奥の部屋へと向かう。扉の向こうには、項垂れたままのミックが力なく座っていた。
「ミック」
声をかければ彼は顔を上げて、心ばかりの笑みを見せる。弱々しいその様子が逆に痛い。
ランバートはそっと近づいて、隣に座った。
「自己紹介が遅れた。俺はランバート、王都で騎士をしている。昨日一緒にいたのは同じく騎士で、ファウストだ」
「ミックです。昨日は助けていただき、有り難うございます」
律儀に頭を下げるミックの顔色は昨日よりはいい。相変わらず痩せているが、顔に赤みが差している。
「大丈夫か?」
問えば、表情が沈む。それでも自嘲気味に笑う辺りが痛々しい。
「分かっていた事ですので。それに、皆さんよくしてくださいます」
「絵の事……」
「…運がないんです、僕」
その一言ですませてしまおうとするミックは、そういう事で自分を納得させようとしている。そんなふうに見える。
負けないで欲しい。けれど、自警団がここまでやっているなら、あまり首を突っ込みすぎるのも考えてしまう。
それなら何が出来るか。考えていたら、ミックは目に薄ら涙を浮かべて、緩く笑った。
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