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「上手くいかないんですね。僕はただ、絵が好きです。沢山の人に見てもらいたいんです。高価な絵じゃなくて、もっと粗雑でいいから、誰かの特別になれる絵であればよかったんです」
「ミック……」
気持ちが分かる気がする。ランバートだって、絵を描いた理由はそうだ。病弱なハムレット兄の為に描いたんだ。
助けてあげたい。ランバートは筆を折ってしまった。嫌な思いをしてまで続ける理由もなく、それでも生きていけた。
でもこの子は違う。この子にとって絵は、もがいてでも続けて行きたい唯一に違いない。そうでなければ今も、泣きながら笑って、絵を描いたりはしない。
手を握り、ランバートは笑う。濡れた頬を手で拭って、頷いた。
「これから俺と、絵を描きに行かないか?」
「え?」
「写生や、素描。スケッチブックに鉛筆持って、好きなように描きに行こう。俺も描きたいんだ」
昨日、少し楽しかった。やっぱり好きだと思えた。単純に、無邪気に、金銭なんて関係なく描きたいものを描く。それを見て、誰かが喜んでくれる。それがとても楽しかった。
その時、ファウストが戻って来た。ランバートはファウストに向き直り、頷いた。
「捉えた奴が吐いた。依頼者はとある画廊の主人だった」
「ファウストは?」
「俺は遠慮した。今は休暇中だし、俺が出なくても任せられる」
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