少年は夢を見る

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 ミックには聞こえないように、ランバートはそう伝えた。画廊が協力したのもこれを狙ったんだろう。もしも賞でも取れば、その絵は高値がつく。それでも欲しがる人間はいるだろうと。  だが、それと同じ構図、同じタッチの絵が素描コンクールに出展され、人の目に触れればどうなる。少なくとも美術関係者は両者を疑う。  ミックをわざと受付の側に座らせて描かせているのはその為だ。真似たのではない、ミックが描いているのだと受付の人間が証明できるように。  疑問に思わせるには、ロナードが出展するよりも早く素描を出さなければならない。時間の問題だが、ミックなら描けるだろうと思っている。 「ロナードの絵が、先に出展されたミックの素描に色を付けたものであれば、誰もが疑念を抱く。師の絵を真似たのではないと、今受付にいる人物も証明できる。それに例え真似たのだとしても、うり二つにはならない。でも、出展される二作は」 「間違いなく、同じタッチだ」 「これを放置するなら、ここの美術は落ちる一方。ここに留まる理由なんてない」  でも、正しい判断を下せる世界ならば……。  時間にして十五分ほどで、ミックは絵を完成させた。それはとても美しい絵だった。  湖の畔、月明かりが差し込むそこで、宙に身を置きながらも手を伸ばして触れる湖の精。そして同じように地上から手を伸ばす王子。悲しみと美しさと幻想が渾然一体となっている。     
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