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美術館前は賑わっている。現在は事前公開ということで、集まった絵画を随時展示している。見ている間にも新しい物が運び込まれてくる慌ただしさがあった。
テーマは古い物語で、この国の民なら誰もが一度は聞く、童話にもなっている物語。
湖の精がそこを訪れる王子に恋をする、神秘的かつもの悲しい話だ。
王子は夜の湖で美しい精に恋をする。そして湖の精もまた、この王子に恋をする。だが王子は彼女を人と思い込んで通い、湖の精もその過ちを訂正しなかった。
夜ごと逢瀬を重ねた王子は、彼女を妻にと望む。けれど湖の精は生まれたこの地を離れて生きる事はできない。それでも王子のプロポーズが嬉しく、応えたいと願ってしまった。
そして約束の日、彼女は湖の水を瓶に詰めて王子に渡し、王子の馬に乗って湖を離れた。ほんの僅か、この夜だけと願い、王子の側に居続けた。
そして明けの空、朝日に透ける湖の精は王子の前から消えてしまう。この時初めて彼女の正体を知った王子は泣き濡れて、己の愚かさに慟哭する。
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