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何より、ミックの絵の方が実は斬新なのだ。今だ格式のある家柄や宮中、教会などはロナードのような重く重厚な古典的な絵を好む。だから、需要はあるはずなのに。
「こんなにも書き手によって違うんだな」
「え?」
隣のファウストが並ぶ二人の素描を見て言う。とても真っ直ぐに。
「才能の違いというよりは、既に方向性の違いに見える。あの男は、ミックの感性が羨ましかったのかもしれないな」
「…そうかもしれませんね」
ランバートには少し分かる気がした。ランバートから見てもミックの絵は思わず見入ってしまう。ただ、ランバートはあくまで趣味だから嫉妬などしないのだ。
だがロナードはミックの絵を見たときにその才能の違いに驚き、悩んだのかもしれない。画家の絵筆を折らせる程の才能というのは、本当にあるのだから。
ロナードは美術館を出た所で自警団に拘束された。抵抗はしなかったそうだ。
そして出展された絵は改めて、ミックの名で出展されて見事銀賞に輝いた。
「ランバートさん! ファウストさん!」
帰り支度をして馬に積んだ時に、ミックとウォルシュが近づいてきた。いくぶん元気になったミックは、元々の輝くような笑みを見せて二人に頭を下げてきた。
「この度は本当に、有り難うございました!」
「大した事じゃないよ」
ランバートの言葉に、ミックは首を横に振った。
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