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【おまけ】 芸術は体験してこそ
ファウストと一緒に、冬の芸術旅行から帰ったのは昨日の夜の事。今日から仕事だ。
疲れているはずなのに全くそれを感じない。むしろ体は軽く、しっかりと動いてくれる。茶化されたけれど。
今は旅行の荷物を解きつつ、ひっそりと持ち出したスケッチブックを開こうとしている。これは、ファウストが描いていたスケッチブックだ。
「なんか、ドキドキするな…」
旅行の合間、何度か見ようとしたけれどその度に失敗していた。恥ずかしそうに絵を隠す人の顔を思い出すと可愛く思える。普段はあんなに堂々としているのに。
だからこそ、それとなくゲットしてきた。バタバタしてきっとファウストも忘れているだろう。
秘密を暴くような気持ちでそっとスケッチブックを開く。そうして現れた絵を見て、ランバートは笑っていた。
最初に描いた風景画は、とてものっぺりとして濃淡もなく、変に角張っていたり、線が曲がっていたり。お世辞にも上手いとは言えないものだ。
けれど、ちゃんと見て描こうとしていたのは伝わる。技術は伴わないが、構図として不自然な部分はない。あるがままの風景を写し取ってはいるのだ。
「やっぱり、芸術方面は疎いのかな」
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