告白

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「ごめんねみそりん。私のせいでみそりんまで巻き込んじゃって…。」 「バッキャロウ!幼稚園からの馴染みじゃねぇか。お前一人にさせっかよ。」 放課後、みつぐとみそりは校舎の屋上で仰向けに寝転んでいる。 みそりは若干江戸っ子口調になっていたが、もしかしたら落語の影響かも知れなかった。 みつぐはディスク1の古典落語に入れ換え、 再度CDプレイヤーの再生ボタンを押した。 演目は“胴斬り” 時は幕末。何かと言うと物騒な時代で、巷には辻斬りが横行したという。 ある男、夜分には出歩かないようにという大家の忠告をすっかり忘れて銭湯に出かけてしまい、その帰りがけに辻斬りに遭ってしまう。 辻斬り、居合の名手と見えて刀を抜きざま真横に斬り払ったのだが、よほど腕がよかったのか刀が名刀だったのか、男は上半身が横にずれて天水桶の上に乗っかっただけという状態で命が助かってしまう。 しかし、このままでは家に帰れないと困っていると、通りかかったのが男の兄貴分。 上半身は背負われ、下半身は褌を引っ張る形で無事に家まで連れ帰ってくれる。 翌日、兄貴分が様子を見に訪ねてくると、上半身は飯を食い、下半身はそこらじゅうを跳ね回っている。 最も下半身が跳ね回っているのには理由があって、元気なところを見せておかないと亡骸として墓に埋められてしまうからなのだが。 男曰く、切り口からは一滴の血も流れることなく、つるんとしているんだとか。 男はもともと大工だったのだが、こんな状態ではもう大工はできない。そこで兄貴分が持ってきたのが上半身は動かなくてもいい銭湯の番台勤め、下半身は足さえあればできる蒟蒻屋で蒟蒻玉を踏む仕事。 兄貴分の勧めに従い就職し、しばらくの時が過ぎた。 兄貴分が様子を伺いに行くと、銭湯、蒟蒻屋ともに「いい人を連れてきてくれた」と重宝している様子。 ただ、働いている当人たち曰く、 上半身「近頃目がかすむから、三里に灸をすえてくれ」 下半身「あまり茶ばかり飲むな、小便が近くていけねえ」
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