攻が出てくるだけ

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それでも育ててくれた父親に感謝していたから、自分が父親の世話をしなくてはと思っていたのだが、それまで酒を飲んでも暴力は決して振るわなかった父親が、最近酒を飲む度に酒瓶を投げつけてくるようになった。そんな父親の変化に、所古の中の何かがふつりと切れてしまったのだ。 そして所古はアルコール依存症になってしまった父親を施設に預け、新しい人生を歩むために地元から離れたこの学校へと移動してきた。 そんな事があった所為か、所古はゲイだ。だから、普通の人が普通に結婚して家庭を築くような普通の幸せを持つ事は出来ないかもしれない。しかし、恋人を作って、周りに黙って慎ましく生きる事くらいは許されるのではないかと思って、新しい環境に身を投じた。 両親の呪縛から逃れての新しい生活。今度こそ上手くいってくれと願いながら、この為に新調した黒のスーツとともに校門をくぐった。 この高校は四階建ての二階部分に職員室があり、所古もまずそこを目指した。 がらりと音を立てて木製の少し古びた扉を開ける。 「ああ、所古先生ですね。おはようございます。所古先生の席はこっちです」 そう言って教頭に紹介されたのは日当たりの良い、校門の桜がよく見える窓際の席だった。 「では朝礼を始めますので所古先生もこちらに」 もう既に教諭陣は集まっているらしく、机に鞄を置いて集団の中に混ざる。 「今年度からこの学校に務めてもらう、数学教師の所古創先生です。みなさんよろしくお願いしますね」 「紹介に与かりました、所古創です。至らないところもあると思いますがよろしくお願いします」 職員室での自己紹介、集まった教諭陣を見回して、隅の方に立っている一人に目を惹かれたが、特に他の教諭の紹介はない。 「他の先生方の紹介はおいおいしていきますので、まずは始業式に行きましょう」 「はい。場所は体育館だったでしょうか?」 「ええ、全員で向かいますので場所は分からなくても大丈夫ですよ」 職員室に残っていた教諭陣で体育館へと向かう。柔和な笑みの教頭のおかげで、緊張していた所古に少し余裕ができてきた。 体育館には既に大勢の生徒が列を成して集まっているが、派手な髪色や短すぎるスカートをはいている者はごく少数で、皆大人しそうな生徒達だった。
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