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「そっか、もうないんだ……」
夜、一人きりの家で私は昼間の出来事を思い出していた。
樹君から知らされた、あの日の向日葵がもうないという事実に思った以上にショックを受けていた。
『思い出の場所なんて言ってもずっと気になっていたという訳でもない』
そんな風に、自分自身に言い訳していたけれど……本当は気付いていた。
あの日の思い出に、今はもうバラバラになった私たち家族を重ねていたことに。
十年前、まだ家族が仲が良かった頃、家族で訪れたパパの田舎。
幸せだった時のことを思い出そうとすると、いつもそこで記憶が止まる。
キラキラと輝くように広がる一面の向日葵。
迷子になった私の手を優しく握りしめてくれた彼の手のひら。
そして――おばあちゃんの家に戻ってきた私を、抱きしめてくれたパパとママの温もり……。
それが、パパとママと三人で過ごした最後の思い出だった。
田舎から帰ってきた後のパパとママは喧嘩ばかりするようになった。
次第にパパは家に帰って来なくなり、そして八年前――私が七歳の頃、二人は別れた。
「でももう……どれも、残ってないんだ」
あの時の思い出の場所も、そして――大好きだった両親も。
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