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「ここだ……」
教えてもらった山は、おばあちゃんの家からそう遠くないところにあった。
子どもが山の中に行くわけがないと思っていたんだけれど……むしろ子どもなら、探検に行ってしまうかもしれない。
地元の人が通るのか、山の中に入る道は人が通れる程度には舗装されている。その道を私はゆっくりと歩き始めた。
それほど険しくない山道を一人歩く。
なんとなく、なんとなくだけれどもその道に覚えがある気がした。
「そう、あの時もこんな風に――」
かつて幼い自分が歩いた道を、必死に思い出しながら歩いて行く。
「そうだ、この先……!」
見覚えのある道に、はやる気持ちが抑えきれず思わず駆け出した。
――次の瞬間、私の身体はバランスを崩し、宙に投げ出されていた。――あの時と、同じように。
「いった……でも、思い出した」
小さかったあの頃、一人で山道を歩いていた私は、この小さな崖に気付かず……今の私と同じように転がり落ちた。
そして……。
「また泣いてるのか?」
「え……?」
声のした方を振り返ると、あの日と同じように坂の上から誰かが私を見下ろしていた。
「樹君……?」
あの日の小さかった男の子の代わりに、そこにいたのは――樹君だった。
「また、って……どういう……」
「――別に、なんでもねえよ」
「待って……っ!!」
私に背を向けて歩き出そうとする樹君を追いかけようと、立ち上がった私の足に激痛がはしる。
「……ったく」
うずくまった私の元に、めんどくさそうな表情をした樹君が降りてきた。
「見せて見ろよ」
「…………」
落ちた際にひねってしまったのだろうか、赤く腫れた足を見ると樹君は手を差し出した。
「その足じゃ歩けないだろ。手、貸せ」
「だ、大丈夫……」
「いいから」
ぶっきらぼうな口調とは裏腹に、差し出された手のぬくもりは――とても優しかった。
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