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自転車で舗装されていない道を走り抜ける。
「……ねえ」
「…………」
「ねえってば!」
「――なんだよ」
沈黙に耐えかねた私が話しかけると……彼は、めんどくさそうに返事をした。
「……その、父から頼まれたって言ってたけど……あなた誰?」
私の問いかけに、はぁとため息をつくと、呆れたように彼は言った。
「聞くの遅くないか? 俺が嘘ついてたら、あんた誘拐されてるぞ」
「う……」
「そういうところ――」
「え……?」
「なんでもない。――俺は、高瀬樹。あんたのばあちゃんちの近所に住んでる」
自転車をこぎながら彼――樹君は淡々と話し始める。
「樹、君?」
「そう」
「私は――」
「ひらり」
「え……?」
「ひらり、だろ?」
「う、うん」
急に名前を呼ばれて、思わずどきっとしてしまう。どうして名前を――?
頭に浮かんだ疑問に答えるように、彼は続ける。
「あんたのばあちゃんがよく言ってた。ひらりに会いたい。ひらりはとっても可愛くて賢い子なんだ……って」
「そうなんだ……」
樹君の言葉に胸が痛む。そんなに想ってくれていたのなら、もう少し早く会いに来ていたらよかった……。
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