第一章 ねこ専門病院

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   院長に任されているこのねこ専門病院の診察室のデスクで、僕は分厚い猫の専門書を読んでいた。入り口には猫のシルエットのオブジェ。院内の白を基調とした壁には、様々な種類の猫が描かれた大きなポスターや、里親募集のチラシが貼られている。デスクの隅には白猫を抱く少女の写真。その横に色あせた赤い首輪。僕はちらりとその写真に目をやった。  いつの間にか外の景色は灰色に染まり、静かな雨が落ちてきていた。僕はスマホの連絡帳を開き、一つの電話番号を見つめた。  閉院まであと三十分。もう今日は患者はないだろうと思ったその時、入り口の扉にぶら下がった猫の形をしたベルが鳴り、高校生ほどの年格好の少女が猫を抱いて入って来た。  その瞬間、僕はこのシーンを見た事がある、と思った。
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