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彼に出会ったのは、季節が秋に片足を踏み込んだ頃。夕暮れ時。
私は、先生の所に向かうために、いつもと同じ道を歩いていた。そう、彼が倒れていた、土手沿いを。
彼を初めて見たとき、私は心臓が止まるかと思った。
だってそうでしょう? いつもと同じ道を、いつもと同じように歩いていたのに。そんな日常の中に、血まみれで倒れている人が居て、私、悲鳴をあげなかった自分を褒めてあげたいぐらい。
現実を認識するまでに少しの間を置いて、私は慌てて声をかけた。
「大丈夫ですか?」
彼は閉じていた目を、ひどく億劫そうに開けて、目玉だけを動かして、こちらを見てきた。
「あの、大丈夫ですか?」
顔を覗き込むようにして、もう一度尋ねる。
私、血は苦手なの、ものすごく。本当は、私の方が倒れてしまいそうだったの。
ねぇ、知っていた?
「……あんたは、これが大丈夫そうに見えるわけ?」
彼は、腕を持ち上げて額から流れる血を拭いながら逆に問い返してきた。額から、止め処なく流れる血なんて、眩暈がしそう。
私は大きく顔を歪めた。
あとで彼は、まるで私の方が怪我をしたみたいだった、と言った。当たり前でしょうに。目の前であんな血をどくどく流している人が居て、普通でいられるわけがないじゃない。
それにね? 彼、……貴方は人の怪我や体調には大騒ぎするくせに、自分のことには無頓着過ぎる。だから、これでいいの。
貴方が自分のことを放っておく分、私が貴方の心配をするから。
「そ、そうですよね。……でも良かった、喋られるならば見た目よりも酷くないみたいですね」
私は本当に安心して、そう呟いた。だって、大怪我しているように見えたのだもの。話が出来ることに安心するのは普通でしょ?
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