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「おい、あんた」
呼び止められて、立ち上がったまま、彼の顔を見て、微笑む。
「大丈夫、私も先生も口は堅いですから」
訳有りなのかなぁと、思っていた。普通ならば、こんな怪我をしたら、どうにかして助けを呼ぶ筈。動けないにしても、声を出せるのだから、助けを呼ぶことは出来るだろう。
それをしなかったのは、何か訳有りなのかと思ったのだ。
私と同じように。
「……そこじゃない」
彼は何故か、苦虫を噛み潰したような顔をしてから、
「名前」
「え?」
「あんた、名前は」
この場の流れにそぐわない質問に、私は一寸驚いた。けれども、人に名乗るときはいつもそうしているように、出来るだけの笑顔を浮かべて、それに答えた。
「茜。一条茜です」
彼は何故だか、眩しそうに目を細めた。
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