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「気味悪いって、やだなぁー、センセ」
「嘘の笑顔を四六時中向けられているなんて、気味が悪いだろうが」
「嘘って」
「それが本物の笑顔に見えると思っているのだとしたら、だいぶ青いな」
淡々と先生に指摘され、神野さんは笑顔を引っ込めると、片手で口元を覆った。
「……嘘っぽい?」
部屋の隅の椅子に座って、二人を見ていた私に尋ねてくる。
最近の隆二は、診察の時は、外で待っている。少し前までは、問診の時ぐらいまでは近くに居たのに。それはきっと、日に日に悪くなっていく、私の心臓の様子を少しでも聞くのが嫌なのだろうな、と思っている。聞かなければ、無かった事に出来るから。
だから、今この部屋には、私と、先生と、神野さんしか居ない。だから私は、隆二に対する気兼ねなく、答えることが出来た。
「胡散臭いですね」
「……はっきり言うねぇ」
苦笑する。
「それは、仮面ですね」
「防御とも言えるね」
先生が、次から次へと、神野さんの包帯を外していく。本当に、ほぼ治ったらしい。
「愛想しておいた方が、周りの人間に与える影響、いいだろ?」
「でも、神野さんのは胡散臭いです」
「……うーん、それは、今後気をつけていくかな」
よほど心外だったのか、胡散臭いかなー? と何度も呟いている。
「隆二に比べれば、とっつきやすいのは確かだがな」
慰めるように先生が口にした。それはまあ、そうだが。
「だって、彼奴は、冷た過ぎだろ、判りやすいぐらい」
へらへらと神野さんが笑った。
「ねー、茜ちゃんさ」
体を捻ってこちらを見てくる。動くな、と先生に叱られていても気にせず、
「彼奴が怖くないの?」
へらへら笑ったまま、真剣な口調で問いかけてきた。
それに、先生の腕が止まる。先生が、困ったように私を見ているのが判った。
怖くないか?
何を当たり前の事を……。
真っすぐに見つめてくる、神野さんの真剣な目を見つめ返し、微笑んだ。
「怖いですよ」
此処には彼がいないから、私は躊躇うことなく本音を口にした。
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