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「人は簡単に『物』になってしまう。だから貴方は、誰も殺さないと、自分も殺されないと約束をして」
貴方が生きていく道はきっと険しい。でも、人殺しにならないで。その時はそれで危険を回避出来ても、貴方はきっとそれに傷つくから。一度は平気でも、それを続けていくうちに、貴方の心はきっと壊れてしまうから。
貴方が死なないことは知っている。でも、あの死神は貴方に消滅を迫った。あの死神は、貴方をこの世界から消すことが出来る。それに、屈しないで。
「決して生きた屍にならないで。貴方は生きていて。どんなに滅茶苦茶でも、格好悪くても構わないから、生きていて」
生きていればきっと、貴方はまた温もりをくれる誰かに出会える筈だから。一人の時の貴方は、太郎君が言っていたみたいに駄目人間になるかも知れないけれど、誰かが居たらきっと持ち直すだろうから。
貴方の永遠は長いのだから、私以外と一緒に居る事、躊躇わないで。
我ながら、今生の別れのようなお願いだと思った。ような、ではない、事実なのだけれども。
でも私は今、貴方の本心を知らないフリをしなければならないのに。嗚呼、私も対外嘘が下手だ。
「それから、」
これが一番大事な約束だ。貴方と私との、私と私との約束。
「私は此処で待っています。ずっとずっと。だから……」
いつまでも他所を見たままの、隆二の頬に手を伸ばす。両手でそっと包むと、無理矢理私の方を向かせた。体勢を崩した隆二が、片手を畳の上につく。
「だから、絶対に帰ってきなさい。いつになっても構わないから」
待っているから。私は。
隆二は何も言わない。嘘を吐く事も、止めてしまったの?
「……約束ぐらい、しなさいよ」
呆れて言った声が、思っていたよりも掠れていた。嗚呼、泣きそうになっているのだな、とどこか他人事のように思った。
覚悟、していたはずなのに。
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