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「神山さん、ですね」
私は出来るだけ、にっこりと笑んでみせる。
「此処をでて、どこか行く処が在るんですか?」
「居場所なんてどこにだって……」
「もし、無いのでしたら」
私は最後まで言わせずに、神山さんの言葉尻に早口で言葉をかぶせた。
「しばらくうちで暮らしませんか? 部屋なら余っていますから」
「……はい?」
先ほどまでの怖い顔を崩して、神山さんは間抜けに口をあけて呟いた。
先生が小さく、
「茜」
と呟いたが、それは嗜めるというよりも、諦めに似た感じだった。
「あんた、俺が怖くないのか?」
神山さんは眉間に皺を寄せると、怪訝そうに呟いた。
私はただ、笑んで見せた。
隆二。貴方は私が怖がらなかったことを不思議がったわ。
本当はとても怖かったのよ。本当に物の怪だったら勿論のこと、そうじゃなくても少し頭がおかしいのではないかと思った私の事、一体誰が責められる?
でも、それよりも、貴方がまるで置き去りにされた迷子のような顔をするから、私は放って置けなかったの。
沈黙が続く中、私は出来るだけ微笑んで、本当は怖くて怖くて仕方がなかったけれども微笑んでいた。
先生が斜め後ろで、右足を少し前にして神山さんを睨んでいる。神山さんは、眉根を寄せたまま、私を見ていた。
ふぅ、
誰かが息を吐く音が、やけに大きく響いた。
「……あんた、莫迦か?」
それを合図に、神山さんが半ば吐き棄てるように言った。
「俺の話を聞いていたか? 俺は人間じゃなくて、化け物だ。こんな大怪我を負っても生きている。そんな人間を傍に置いておく事が、どんな事か判っているのか?」
畳み掛けるような言葉を、私は一呼吸おいて受け止める。
化け物、化け物、化け物、ね。くすりと少しだけ、自分にだけわかるように嗤う。
「貴方がもしも悪い人なのでしたら、私も先生も殺しているんじゃありませんか? ほら、正体がばれちゃ生かしておけねぇ! ってやつです」
「あんた、顔に似合わず、えぐいな」
先ほどとは違う意味合いで、神山さんは渋い顔をした。
「よく言われます」
私は嗤う。
はぁ、と神山さんが溜息をついた。
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