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「確かに、正体がばれたら困るんだよ。迫害されるならまだしも、見世物小屋を呼ばれた日にはどうしたらいいものかと」
神山さんは首を横に振った。見世物小屋、呼ばれたことあるのかしら?
「だけど、まぁ、あんたたちはそんなことしないだろうし。別に、されてもいいけど」
肩をすくめる。
「正体がばれたからって、ほいほい殺してたらまずいんだよ。変死体が見つかったり、行方不明者がでたりしたら、そっちの方が彼奴らに見つかるかもしれない」
「彼奴ら?」
苦々しく吐き出された言葉の、判らない部分について小さく問い返す。
神山さんは一瞬目を細めて、次に舌打ちして、
「関係ない」
それだけ吐き棄てた。どうやら、失言だったらしい。
手の内を明かさないのは、お互い様?
「そんなこと言って、怪我が治るまで油断させてるだけじゃないか?」
後ろで先生が呟いた。その解釈もありえるが、私は思わず振り返って先生を睨んだ。
「そう思うなら、俺を放り出せばいいだろう? わざわざ戻ってきてまで殺すような、酔狂な人間じゃないさ」
神山さんは先生を睨むようにして見つめ、言った。それから、ふっと顔を緩ませると、
「ああ、人間じゃないけど」
嗤った。
自分で言うのも躊躇われるけれども、彼のその嗤い方は、ひどく、私に似ていた。
「神山さんは、」
私は嫌なことに気づいてしまったと、内心で自分を罵りながら、表面上はにこやかに尋ねる。
「どうして、怪我をなさったのですか?」
言った瞬間、神山さんの動きが止まった。
先ほどまで浮かべていた嘲笑を消し去って、ただただ、目を見開いてこちらを凝視する。
「痛いところをつかれた、って顔だな。人でも殺したか?」
先生が言う。
「先生」
流石にそろそろ放って置けなくて、私は先生を睨みながら、嗜めるように告げる。
「私に全権を委任してくださったのではないのですか?」
先生は驚をつかれたような顔をして、それから渋々と、
「まぁ、そうだが」
それだけ言う。納得していないのがありありと伝わってくる。私のことを心配してくださるのは嬉しいが、それとこれとは話が別だろう。
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