満月の夜に 城side

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しばらく彼女は静かだった。 どこに向かって歩けばいいのか俺が途方に暮れていると、急に彼女は息を吹き返したように喋り出した。 「…和成、来てくれたんだ… 私が東京に来てるって知ってたくせに… 居留守ばっかり使いやがって… こっちだって、四六時中、和成の事ばっかり考えてるわけじゃねーんだよ…」 俺は彼女の腰を支えながら、急に嫌な予感がし始めた。 口調がどんどん荒くなるのはしょうがないとして、でも、彼女が腕を回している俺の腰の辺りを言葉の端々にちょくちょくつねってくる。 「あ、あの、俺は、その和成っていう男ではないです。 君が酔っ払ってフラフラしてたから、手を貸しただけの通りすがりの男です。 だから、あの、そのつねるのは止めてほしいんだけど、イテッ…」 プロジェクションマッピングを取り入れた空間デザインで、その業界では一躍有名になった。 一般的だった今のイベント制作会社を、新しい斬新なアイディアで上場企業までのし上げた。 “Kalet”の安達城と言えば、その業界では知らない人はいない。 そんな仕事の鬼で何事にも動じない俺が、どこの誰かも分からない女の子に腰をつねられ見悶えている。 それでも離したくはない… 本当に俺はおかしくなってしまったのかも… マジで俺は、満月の月明かりで、他の誰かに変身してしまったのかもしれない…
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