満月の夜に 城side

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すると、彼女はまたおいおい泣き出した。 「もう、私の名前、忘れたの…? ひどいよ、そんなにもう嫌いになったの…?」 フロントのおじさんも、気の毒そうに俺を見ている。 こんな酔っ払い、普段の俺なら1mmも相手にしないのに、マジで何やってんだよ… 目が座っているその女の子の顔を覗きこんで、俺は無理やり彼女と目を合わせた。 「ねえ、俺はその和成って男じゃない。 君の名前は何て言うの? 頼む、教えてほしい」 すると、彼女は急に立ち上がり、またバックを掴んでツカツカとフロントまで歩き出した。 「小牧翼です、鍵下さい」 そう言いながらも、フロントのカウンターに顔を押し付けてまた寝そうになっている。 フロントのおじさんは慌ててその翼という女に鍵を渡すと、その彼女は千鳥足でエレベーターに乗った。 唖然としている俺を見て、バイバイと手を振り当たり前のように自分の部屋へ戻って行った。 何が起こったのか、俺は、まるで夢でも見ている気分だった。 こんなにも女の子に振り回されたのは生まれて初めてだったし、何だかひどく落ち込んでいる自分に戸惑っている。 まるでフラれた気分だ。 いや、フラれた事なんてないから、きっとこういう感じなのだろう… この数時間の間に、恋をした気分を味わって、フラれた気分を味わうなんて、俺の眠っていた感情は気の毒な程忙しい。 でも、確実に、胸はバカみたいに高鳴っている。 小牧翼… また、いつか会えるかな…
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