目覚めの先 城side

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俺は、生まれて初めて、ウキウキワクワク感というものを体感した。 9月1日という記念すべき日を、俺は一生忘れない。 でも、ここまでの道のりは、俺にとっては冒険に等しかった。 まずは、翼と出会ったあの満月の夜から三日が過ぎた頃、部次長会議で9月の人事異動の報告書を手渡された。 空間デザイン室には誰も入って来る予定がなかったから、その文書には全く目を通さずに会議に集中していた。 すると、たまたま隣の人間が俺の椅子の下にペンを落とした事によって、そいつが広げて見ていた人事異動の文書が目に入った。 コマキツバサ…? あの夜から俺の思考をぐちゃぐちゃにしているあの子の名前も小牧翼だ… 俺は自分のその文書を何度も確認した。 コマキツバサ? 面倒くさい事にカタカナでしか表記されていない。 コマ、キツバサさん、なんて絶対にいないし、コマキツ、バサさんもそんな名前あり得ない。 という事は、コマキツバサに間違いなくて、きっと小牧翼と書くはずだ。 会議が終わると、俺はすぐに人事部長を呼び止めて、そのコマキツバサの情報を得た。 「あ~、大阪から来る子だよね? 小牧翼さん、女性で確か25歳だったかな… 城ちゃん、何、知り合い?」 この人事部長はラッキーな事に唯一俺と仲良くしている人間だ。 年も同い年で面倒見はいいが口が堅く、この若さにして人事部長に抜擢された。 本人はあまり嬉しそうではなかったけれど。
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