“愛しみ”は底なし沼

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二日目の朝、翼は教育係の桜井明日香の指示をずっと待っていた。 昨日、室長が出掛けた後は、桜井さん達のチームが取り組んでいる美術展示会の外装のデザインを見せてもらった。 展示会場の外の広場に大きなオブジェを作り、そのオブジェを取り囲む空間に噴水で水のアートを作る。 翼はパソコン上に映し出されたイメージ映像を見ただけで、このプロジェクトに関わりたいと心から思った。 でも、桜井さんは浮かない顔をしている。 「私達は一緒にこの企画に取り組んでいくつもりだったけど、室長がどう考えてるのか分からない。 今日は室長は帰って来ないみたいだから、明日の朝一で小牧さんの居場所を聞いてみるね。 室長秘書なんて今まで聞いた事ないし、というより、人間嫌いな室長がそんな他人に自分の身の回りの世話をさせるなんて多分あり得ないと思うんだ…」 「ですよね! 桜井さん、私も皆さんとこの仕事、一緒に取り組みたいです。 どうか、どうか、そうなるように、どうぞ、どうぞよろしくお願いします」 翼は必死だった。 室長が、決して悪い人ではないのは分かってる… でも、なんだか胸がざわざわして居心地が悪過ぎる。 魚が死んだような冷めた目つきと愛猫を見るような熱い眼差しが交互にやって来る異常事態に、私は絶対に慣れない。 それに、イケメン過ぎるのも問題だった。 だってそんな変な性格なのに、結構私のタイプの顔で、もしかしたら和成より好きな顔かもしれない… 今の私は男の人とのいざこざには関わりたくないし、そんな気力もなかった。 できることなら、女だけの修道院にでも入りたいくらいなのに…
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