“愛しみ”は底なし沼

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城は、中々室長室に入って来ない翼にイライラが達していた。 昨日、これからの翼の仕事はちゃんと説明したはずなのに、何でこの部屋に入って来ない? イライラする事にあまり慣れていない城は、自分をコントロールする術を知らない。 大人の男ならどっしりと座って構えているのだろうけど、城はブラインドを下ろした部屋でウロウロ歩き回っていた。 我慢できずに上げたブラインドの先に、翼を見つけた。 髪をショートにしたせいで、首筋がとても美しく首が長くほっそりと見える。 城は早く来いと手招きをした。 自分の急速な変化に、城自身笑ってしまう。 人間に対して手招きなんて、俺は確実に変わってしまった… ドスン、ガタガタ。 翼は何か怒っているのかもしれない。 城のデスクから見て応接セットを挟んだ先に、翼のデスクをレイアウトした。 この室長室が広くて本当に助かった。 元々、あまり物や人を置かない城のスタンスには反してはいるが、翼は例外だ。 できるだけ近くにいてもらわなきゃ困る。 何で?と言われても、それに理由はない。 俺がそうしたいって思った事が何よりも大事だから。 「もっと、静かに片付けできない?」 城が翼にそう聞くと、翼は怒っている顔をしているが目には涙が浮かんで見えた。 「レイアウト、気に入らなかったか?」 城はそんな事しか思い浮かばない。 でも、それはそれで城の精一杯の優しさなのかもしれないが、何しろ全てが初心者なのだ。
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