“愛しみ”は底なし沼

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城は何も返事をしない翼の事が気になって、翼のデスクの前に腰かけた。 「どうした…?」 城は翼の顔をジッと見た。 あの初めて会った時は暗闇で、でも、それでも綺麗だと思った。 今、太陽の光が入るこの部屋の中で見る翼は、それ以上に息を飲むほど美しい。 でも、城が目の前に来ても、翼は絶対に目を合わさない。 困り果てた城は、それでも翼をジッと見ていた。 「な、何で、この部屋なんですか…? 秘書の仕事はちゃんとやります… だから、ここじゃなくて、桜井さんの隣じゃダメだったんでしょうか…?」 翼はこの部屋で、室長と二人きりで仕事をしていく自信がなかった。 私はデザインの仕事をしたくてこの会社に入ったのに、室長の顔色をうかがうための仕事だなんて考えただけで涙が出てくる。 「俺と一緒は嫌か…?」 翼は正直にコクンと頷いた。 「俺は君と一緒がいい」 城も翼に負けじと正直に答える。 「室長の一存ですか…? それとも社長の命令ですか…?」 城は、目に涙を溜めてでも城を睨みつける翼の顔から目が離せない。 「俺の一存。 社長は何も知らないし、何か知っても俺の好きなようにさせてくれる」
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