“愛しみ”は底なし沼

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翼は涙を堪えながら、外ばかり見ている。 城はキャスターの付いた椅子を上手に操って、視線を合わせない翼の目の前に椅子を動かした。 「悪いけど、この場所で仕事をしてもらう事は譲れないんだ。 何がしたい…? それ以外なら何でも叶えてやるよ。 別に俺の世話なんてしなくていいんだから」 城は早く翼の笑顔が見たかった。 一方的な自分の想いを押し付けている事に、まだ何も気付いていない。 「どうしてですか…? どうして、そんな風に私にこだわるんですか…?」 翼の顔が沈んで見える。 「それは簡単な事だよ。 君は覚えてないかもしれないけど、俺達は前に出会ってるんだ。 君に会って以来、俺の眠っていた感情がどんどん目を覚ましてる。 俺は君と出会ったあの夜に、君に恋をしたみたいで、いや、確実に恋をした。 だって、君を見てるだけでこんなにドキドキするんだから」 翼は何度も目をパチパチさせた。 室長と出会ってる…? どこで? いつ? 今度は翼が城を瞬きもしないでジッと見た。 いや、知らない… こんな綺麗な顔の人、会ってれば絶対覚えているはずだもの…
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