“愛しみ”は底なし沼

8/27

562人が本棚に入れています
本棚に追加
/171ページ
翼は目の前の座っている室長の椅子を、自分の方から窓の方へ方向を変えた。 室長は私の事を知っているのかもしれないけど、私にとっては初対面で、それも会社の上司という何も言い返せない立場なんです。 だから、その私と出会ったという思い出は、できることなら全て忘れてほしいんですけど… 窓を向かされたのにまだ大人しく座っている室長を横目で見ながら、翼は机の回りの整理をし始めた。 とりあえず、三か月頑張ろう… 三か月頑張ってどうしても無理だったら、その時は会社を辞めて大阪へ帰ろう… 城は、突然外を向かされて、あっけに取られていた。 確かに、キャスター付きの椅子に座ってかなりの至近距離まで翼に近づいた。 本能とは恐ろしいもので、とにかく翼の近くにいたい、声を聞きたい、出来る事ならちょっと触りたい、そんな衝動が俺の頭の中を占めている。 本能のままで動き出したら、俺は最高な幸せを手に入れるが、最低な男に成り下がるだろう。 翼に嫌われたら、今の俺は生きていけない… 悲しいけれど… でも、翼は、きっと、一筋縄ではいかない。 だって、直属の上司の俺を、こんな窓際に追いやった。 翼を目の前にして浮かれて喋っていた俺は、今、見たくもない青空を見ている。 城は小さくため息をつき、その椅子から立ち上がった。 「今日の予定は、10時から、桜井さん達のチームとの会議がある。 それに、君も入ってもらう。 俺の隣に座ること。 桜井さん達の方に座るんじゃないぞ」
/171ページ

最初のコメントを投稿しよう!

562人が本棚に入れています
本棚に追加