“愛しみ”は底なし沼

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10時になり、室長以外の会議のメンバーは全員揃っていた。 室長がまだ来ないちょっとした時間を見計らって、桜井さんが翼の隣にやって来る。 桜井さんが来ると、他のメンバーも翼の周りに集まって来た。 「小牧さん、どう? 大丈夫?」 桜井さんが心配そうに翼にそう声をかけると、そのチームのリーダー格の男の人が急に話に入ってきた。 「あ、僕は、別府という者です。 なんか、桜井さんから小牧さんの事を聞いて、ちょっとそれはひどくないかって皆で話してたとこなんだ。 僕の方から、室長に話してみるよ。 せめて、勉強がてら、このチームに入って僕達の会社が今やってるプロジェクトを学ぶ事は大事だと思うからさ。 一人だけ隔離されるのって、ちょっと可哀想過ぎるよ」 翼は泣きそうだった。 でも、そんな皆の意見が、あの室長に受け入れられるとは思えない。 「ありがとうございます… そうなれば私もすごく嬉しいんですけど、多分、きっと、無理…」 翼がそう言いかけた時、完全に感情を失くした顔の室長が入って来た。 すると、皆、翼の周りから蜘蛛の子を散らすように離れて行く。 翼は未だに室長のあの能面のような顔に慣れないが、今ここにいるメンバーは平然としていた。 きっと、この顔が室長の普通の顔なんだ… ううん、でも、私は、そうじゃない室長の顔も知っている。 愛猫を見るような優しい眼差しの室長を… もしかして、あれは私だけ…?
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