“愛しみ”は底なし沼

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城は、間違いなくイラついている。 前の打ち合わせが長引いてこの会議に遅れた事はもちろんだが、それより、俺が会議室に入った途端、翼の周りに集まっていた人間がさっと離れた事、いや、それより、別府という男がしばらく翼の元から離れず俺を非難するような目で見ていた事だ。 今までの俺は、仕事ができない人間に対して、そりゃ普通にイラつく事はあった。 でも、このイラつきは尋常じゃない。 ケンカなんてした事がない俺が、ケンカがしたくてウズウズしている。 でも、落ち着け… ここは会議室で、俺はこの会社を動かしている皆に一目置かれている室長だ。 ケンカなんてするんじゃないぞ… ケンカなんてできないんだから… 城は遅れた事を謝って翼の隣の席についた。 城にとっては普通の事をしたはずなのに、チームのメンバーが一斉に城を見る。 いや、城を見るというより、城を見て翼を見て、マジで信じられないというような顔をして更に城を見ている。 「室長、打ち合わせを始める前に、ちょっと話があるんですけど」 そう言って立ち上がった別府を、城は鋭い目つきで睨んだ。 「仕事の話か?」 「いえ、小牧さんの処遇の話です」 城はチラッと翼を見る。 「何も問題はない」 城は面倒臭そうにそう答えた。 早く会議を終わらせて早く室長室に籠りたいのに、そんなくだらない事で時間を長引かせるな。 「室長、小牧さんをこのプロジェクトのメンバーに入れて下さい。 彼女だって、そう願ってます」
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