“愛しみ”は底なし沼

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城は、もう一度翼を見た。 翼は自分の事を話しているのにびくりとも動かず、城の答えを待っている。 「それはない、以上。 じゃ、今日までの進捗状況を説明してくれ。 さっさと終わらせるぞ」 城はイラつく気持ちを鎮めながら、別府の動向を見ていた。 小さくため息をついたと同時に、翼にごめんと目で合図している。 城は、この恐ろしいほどのやっかみをどう処理していいのか分からない。 城は大きく息を吸い、ここに座っている全ての人間を死んだような目でねめつけてこう言った。 「勘違いしてるみたいだから教えてやるけど、俺が小牧さんにしてる事は意地悪でも何でもない。 彼女には、新しいプロジェクトのプロジェクションマッピングの担当になってもらおうと思ってる。 彼女の才能を買って、俺は自分の横に置いてるんだ。 文句がある奴は、俺を唸らせるほどの仕事をしてからにしろ。 はい、じゃ、始めるぞ。 アート作品の新しい展示方法をちゃんと準備してきたんだろ それを俺は聞きに来たんだ」 翼の心臓は、何の鼓動なのか分からないくらい激しく高鳴っている。 こんなに冷静で冷淡で、それでいて仕事ができる大人の男性を見た事がない。 室長は私を買ってくれている… 愛の言葉を囁かれるより、今の翼には、何よりも嬉しい言葉だった。
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