“愛しみ”は底なし沼

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翼はただ黙って室長の後を付いて歩いた。 室長も後ろを振り返る事もなく速足で歩いている。 翼は不機嫌な室長の事より、今日の歓迎会の事で頭がいっぱいだ。 今日歓迎会って知っていたなら、もっと可愛い恰好してきたのに… 窓ガラスに映る自分の姿を見て、小さくため息をついた。 室長室に入ると自分のクローゼットに向かった室長を見送って、翼はデスクの椅子に疲れたように座り込む。 また、これから室長と二人きりだ… あ~、早く時間よ過ぎてほしい… すると、上着を脱いだ室長が、自分のデスクではなく翼のデスクに向かって歩いてくる。 翼は気づかないふりをして、会議の時にもらった資料に目を通すふりをした。 「歓迎会… 行くのか…?」 室長は、またキャスター付きの椅子に座っている。 でも、今のところ、さっきの件で学習したのか、翼の至近距離には近づいていない。 「…はい。 私のための歓迎会なので、行かないと失礼ですから」 翼は顔を上げずにロボットのようにそう答えた。 何なのか分からない… 室長が苦手なのか、ただ恥ずかしいだけなのか… でも、一つだけ言えるのは、室長を私まで無視したら、きっと一人ぼっちになってしまうという事。 この気持ちが何なのか分からない… 気にしたくないのに、きっとすごく気になっている。 だって、私だけに見せる室長の顔が多すぎる。 それは、私だけにしか見せない室長の弱さだったりするから、きっと放っておけない…
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