“愛しみ”は底なし沼

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翼は泣きたくもないのに、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。 室長は魔法の鏡で私の事を毎日見てるのかもしれない。 そうじゃないと、こんなに的を得た事を言えるはずがないもの… 「そんなに歓迎会に行きたいのか?」 涙を流す翼を見て、室長はそう聞いてきた。 「そんなに行きたいのなら、一つ条件がある」 椅子に座っていた室長も立ち上がった。 間近で見る室長は、すごく背が高い。 私の身長で顔を見上げるなんて、あまりない事だから。 「条件って何ですか…?」 泣いている私は、まるで歓迎会に行かせてもらえない駄々っ子のようだ。 でも、この涙は、私の事を思いやる室長の優しさに触れた事で出てきたものなのに。 「条件は、俺もついていく。 だから、その旨をあいつらにちゃんと伝えること」 「え??」 城は握っていた翼の腕を名残惜しそうに離した。 「あの、室長、きっと、皆、ビックリすると思います… だって、他人には興味のない室長が、歓迎会に来るなんてあり得ないって思ってますから。 皆が何て言うか…」 泣いたり困ったり表情筋をフルに使っている翼の顔を、城は飽きる事なく見ていた。 「人が何て言おうと俺は全然構わないけど。 ま、確かに他人には興味がないのは当たってるな… でも、俺は、君には興味があるから。 限定だけどね。 逆に言えば、君以外の人間には、今まで同様全く興味はない。 って伝えてて」
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