“愛しみ”は底なし沼

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翼の歓迎会は、会社の近くにある隠れ家風イタリアン居酒屋“ボーノ”という店で行われる事になった。 会社の退社時刻になっても室長室に戻って来ない室長に、翼は置手紙を残した。 店の名前と住所そして電話番号を書いて机の上へ置き、翼は桜井さん達と一緒にその店へ向かった。 「でも、本当にびっくりだよね… 室長が歓迎会に参加するなんて」 桜井さんは翼の顔を見て肩をすくめて笑った。 「よっぽど小牧さんの事が気に入ったみたいね」 翼は何も言えずに俯いた。 それは紛れもない事実だから。 「室長って、こんな飲み会って、多分一度も参加した事がないと思うよ。 ま、元々、普通の会社みたいに新年会とか忘年会とか決まったものはなくて、社員の自主性でやるのがほとんどなんだけど、社長が参加する飲み会にも室長は参加しない。 徹底してるというか、興味がなさすぎるとうか、だから、皆、室長には声をかけないし、逆に室長が来てあんな冷めた顔で面白くなさそうにされてもね… 皆、お酒がまずくなるでしょ?」 翼は、自分のせいで皆のお酒がまずくなるのではないかと心配になった。 「他の皆さんは、室長が今日参加するって知ってるんですか…?」 翼がそう聞くと、桜井さんは人差し指を口に当てて首を横に振る。 「怖くて言ってない… でも、ちょっと、面白そう。 室長が登場した時の皆の反応が、どんななんだろうって。 大丈夫、小牧さんが気にする事はないから。 室長の事は無視して、楽しめばいいって」
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