564人が本棚に入れています
本棚に追加
一瞬静まり返った後、ヒューヒューと城と翼を冷やかす声が飛び交った。
翼は恥ずかしそうに俯き、首元から耳にかけて真っ赤になっている。
城は冷やかしている連中を一瞥した後、口元に人差し指を当ててシッと言った。
城の不可解な行動は、もう一度、皆を静まり返す。
感情の起伏がない、笑った顔も見た事がない、何を楽しみに生きているのか分からない、そんな謎だらけの男がこの場に居る事自体が奇跡で、そんな男が新人の小牧翼に入れ込んでいる事実は、あらゆる面でここにいる皆を黙らせた。
城は翼の隣に座ると、まず、翼が何を飲んでいるかチェックする。
もう乾杯は終わったらしく、皆それぞれ飲み物を手にしていた。
翼はビールを飲んでいる。
それも、もうグラスの中に三分の一も残っていない。
「室長、何を飲まれますか?」
翼の向こう側から桜井さんがそう聞いてきた。
「じゃ、俺もビールで」
すると、翼は残っていたビールを一気に飲み干した。
「桜井さん、私もビールお願いします」
城は翼に対しての心配が頂点に達している。
相当酒癖が悪いのを知っているせいで、それが一体どれ位の量からなのかが全く見当がつかない。
俺が、今日、この歓迎会に参加すると決めたのはこのせいだ。
もし、翼が酔っ払ったら、その時は俺が介抱する。
あんな無防備な翼を他の連中に見せたくないし、その前に酒を飲ませないようにしなければ。
心配し過ぎて俺の方が、先に潰れそうだよ…
最初のコメントを投稿しよう!