“愛しみ”は底なし沼

25/27
前へ
/171ページ
次へ
翼は室長にそう伝えながら、頭の中であの東京での自分の行動を必死に思い起こしていた。 会社での研修を済ませた二日目の夕方、和成の家を住所を頼りにウロウロ探し回った。 怖い女かもしれないけど、和成の家の前で和成を待つつもりだった。 そんな事でもしなければ、和成と話す事すらできなかったから… やっと見つけたそのマンションの郵便受けの名前を見て回った。 神経質な和成の事だから必ずポストに名前を出している。 でも、和成の住所のポストには違う人の名前が出ていた。 「相当、酔っ払ってたよ」 翼は室長の言葉で一気に現実に呼び戻された。 そう、あの時のショックは今でも忘れない… あの一人ぼっちの夜は、浴びる程お酒を飲んで現実から逃げ出したかった。 「色々あって、バカみたいに飲んだのは確かです… 東京に知り合いもいなかったので、ただ飲むしかなくて…」 あ~、ヤバい… あの時の自分が可哀想過ぎて、また涙が出てくる。 「ふ~ん」 室長は少しだけイラついた目になっている。 「もし、その時に、室長に迷惑をかけたのなら、本当にごめんなさい…」 いつの間にか届いていたカクテルを、室長は私の手に持たせる。 そして、自分のビールを、私のグラスにカチンと合わせた。 「そんなくだらない和成なんて、こっちから捨ててやれ…」 「…は??」
/171ページ

最初のコメントを投稿しよう!

564人が本棚に入れています
本棚に追加