“愛しみ”は底なし沼

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「え? 室長、今何て言いました?」 室長は不愉快な笑みを浮かべて、持っていたグラスビールを一気に飲み干した。 「君は和成っていう男に捨てられたんだろ?」 単刀直入で無駄のない室長の言葉は、翼の心に突き刺さる。 「私が… 話したんですか…?」 翼は穴があったら入りたかった。 和成のナイーブな話まで、室長に話しているなんて… 「話したというより、一人でベラベラ喋ってた。 俺は、君を抱えてホテルまで送ったんだけど、その長い距離の間、飽きずにすんだよ」 翼も手に持っていたカクテルを一気に飲み干した。 そして、通りかかった店員に、しかめっ面でもう一杯おかわりを頼む。 「でも、もう、さすがにその和成の事は整理がついたんだろ?」 城は配慮のなさが自分の足りない所だなんて、全く気付くはずもない。 何せ、様々な感情が湧き出してはくるけれど、それの対処法すら何も分からないのだから。 心に思った事を口に出す。 それが、今の城のやり方だ。 「私が室長にどこまで話しているのか全然分からないですけど、整理がついたかって言われれば全然ついていません…」 おかわりのカクテルを手に取ると、翼は二秒で飲み干した。 そして、またおかわりを頼む。 「あ、すいません。 水ももらえますか?」 城は翼のトロンとした目に危機感を覚えながら、店員にそう言った。
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