1 秋終わり

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1 秋終わり

 道の傍らに佇むイチョウの葉が黄色に変わってきた。毎朝行わられている小テストの順位は今日も上位にいる。同じ位置で母から責められることもなく、ユリは安堵した。「ユリ」と私を昼ご飯に呼ぶ女友達はいない。もちろん男子生徒からも忌諱されている。母が選んだ男女共学の高校3年間通っていても友人はできなかった。味気ない高校生活。日々気になるのは、各科目のテストの点数と順位だけ。スーパーでパートをしている母が安く買ってくる菓子パンをお昼ご飯で食べている。不思議なことに菓子パンを飽きることはなかった。今日もいちごジャム入りのコッペパンをかじりながら教科書を開き、朝のテストで出たところを復習した。家に帰るや母からテストされるから。  隣に座っている女子高生達は島を作り携帯電話をいじりながら、芸能界のことで話が盛り上がっている。それには手を止めなかった。しかし、インフルエンザワクチン接種の話題になったとたん手が止まりそうになった。小さいころ注射を打たれてから嫌いになったそれをまた打つ季節となっていた。異物が体に入るあの感覚が苦手だ。午後は1時限しかないがインフルエンザワクチンのことで頭がいっぱいで遅く感じてしまった。授業がおわり、月曜日までの宿題のプリントが配られた。それをクリアファイルに挟みカバンに入れて肩に背負った。  部活や駅方向に消えていく生徒を横目に帰路に着いた。バスに乗り、郊外に出た。ユリの住んでいる家は郊外の10階建てのマンションの6階の1室である。意味もなく高いエントランスを通り抜けエレベーターに乗って6階に向かった。建物にへばりついている廊下は風がよく通る。廊下を歩いて玄関の扉を開けた。靴を脱ぎ小部屋に挟まれている廊下を抜け、広めの居間に入った。先に帰っている高校受験を控えた妹のミカは居間に据えられている彼女の机に座ってもう勉強をしていた。 「ただいま」「おかえり」国語や英語の教科書でたまに見かける挨拶はこの家には存在しない。ユリはカバンを床に置いてミカと隣同士の机に座った。カバンから今朝のテストの答案用紙と回答用紙を取り出し横の空箱に入れた。  ミカと共にいつものように復習していると母が帰ってきた。期限間近の菓子パン、お惣菜、白米をスーパーの袋に入っている。その袋をテーブルに置くや母は箱に入っているテストを取り出した。
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