2 冬へ

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 外はもう暗くなっていた。バスに乗り街明かりを横目に考え込んでしまう。小さいころ覚えていくのが楽しく勉強をしていた。しかし、それがしがらみとなって今を束縛している。大学に行ってしがらみのない生活をしたいとどこか思っている。しかしその道のりが分からない。うなだれて考え込んでいるうちにバスは駅前に着いた。家方向へのバスに乗り換えた。乗ってくるのは仕事や学校が終わった人たちが多い。そのバスに揺られアパート前に着いた。冷たい風に身を縮め家に急いだ。 昨日よりも早く家についてまだ慣れない――慣れたくない1人での夕食を済ませて風呂を沸かした。勉強を急いで終わらせ風呂も軽く湯船に浸かるだけにした。帰ってきた母に終わらせた範囲のチェックをして父が帰る前に布団にもぐった。もうあの怒声は聞きたくない。  妹が退院するまでの日数が早く過ぎた。入院中変わったことはない。ミカは今までの穴を埋めるように勉強をするようになった。  妹が帰ってきて数日たったある日。学校でいつものように朝のテストをしているときに異変が訪れた。鋭利な包丁で切ったように記憶が抜けた。学校行く前まで解けていた問題が乾いた食パンのようにぼろぼろとわかっている答えが抜けていった。机に突っ伏して泣いてしまった。  保健室に運ばれてある程度たつと今度は手足が震えた。耳たぶに当てて測る体温計は平熱をさしている。震えが止まらず救急車に呼ばれ妹が入院していた地域総合病院に運び込まれた。病院に着くころになってようやく震えが小さくなった。しかし念のためMRIと呼ばれる機械で調べられた。注射針を刺され血液検査をした。しかし異常なしと医者からつげられ、ベッドで点滴して母の迎えなく帰った。 「おそい」 「お母さんごめんなさい学校で倒れたので」 「そう。お金を後で払っておく」 「うん」 「ユリやミカが大学に通えればいいの。お母さんのように高校卒業で、お父さんのような変な男につかまってこんな生活を送ってほしくない」 「お父さんの悪口は言わないで」 「そうなら勉強するだけね」  母は私たちが見えていないようだ。母に言われるままの勉強を再開した。その日から手足の震えが続き記憶が抜けるのが怖くなった。良くなることもなく年を開けてセンター試験を受けたが結果は散々だった。 「もう1年頑張ろう」  母にそう言われて予備校に通い始めた。
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