3 春過ぎて

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 土曜日はまだ長雨の途中だった。雨量が多くなく少しずつ降っているその雨はユリの心に積もる何かを示しているみたい。ユリは乗ってきたバスを降りて、傘を差しうつむきながらクリニックへの道を急いた。1階に薬局がある雑居ビルの3階にそのクリニックはあった。建物の隅にある入口から入ってエレベーターに乗った。エレベーターを降り薄暗い廊下を歩いてクリニックの前まで来た。傘受けに傘をさして自動扉を抜けると白色を基調とした受付があった。受付で保険証を見せた。手続きはすぐに済み名前を呼ばれるまで待合室の柔らかいソファーに座った。ほかには人がいない。ゆったりとした音楽が流れている。名前を呼ばれ診察室に入ると白衣を着た初老の男性の先生が椅子に座っている。ほかには小さな机と患者用の椅子しかない。まるでユリの部屋みたいと一瞬思ってしまった。その初老の先生と幾ばくか話をして今日は終わった。最後に薬を出すので1階の薬局によってといわれた。待合室でお会計と数種類の薬の名前が書かれている紙を手渡された。1階の薬局で薬を購入した。母からもらったお金で十分だった。  その日から月に1度そのクリニックに通い始めた。薬の成果もあって手足の震えは徐々に収まってきたが、記憶が抜ける恐怖はいまだになくならない。季節は変わり夏休みであった暑い季節がきた。  
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