1 秋終わり

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「ミカは全部あっているね」「ユリ、また1問間違えている。これだと大学に行けないよ」  そう言い放った母は棚の中で束となっているクリアファイルの1つにテストを挟んだ。棚にそれを閉まった母は台所に行った。レンジで白米と総菜数種を温めてテーブルに置いた。 「いただきます」そのような号令もなく夕飯を食べ始めた。 「ユリ、明日土曜日午前にインフルエンザのワクチン接種が入っているから忘れないで。ミカは来週の土曜日に予約入れてあるから」  母の言葉をメモに取った。食べ終わったのをゴミ箱に入れ再び机に向かった。母が明日の朝に出すテストを作る傍らで勉強を始めた。夜10時になると先に風呂に入ったミカの後から風呂に入った。湯船につかるのも束の間でさっさと体を洗って上がった。寝間着を着て歯を磨いて布団しか家具がない自室にいった。布団にもぐった。小学校から毎日同じ生活が続く。友人と遊ぶと叱られ、学校へ行きたくないというと罵られた。母の顔色を伺う毎日だ。下り物があってもの何となくしかしていない。布団に入って流れる涙は枯れている。  朝、目覚ましに起こされた。顔を洗い、着替えた。母が温めたスーパーで売れ残った食パンを妹と一緒に食べた。父は夜遅くに帰ってきている。そしてユリが起きる前に会社に毎日行っている。朝食が済むと母が問題集から作った問題を解いた 「ほらまたここを間違えている」  母に指摘され付箋を貼られたところを直した。インフルエンザワクチンの予防接種の時間になるとやっと解放されバス代と予防接種代を手渡された。家を出てバスに揺られて近くのクリニックに向かった。ここには来たくなかった。ユリが行きたかった女子高に通っている同級生の両親が経営しているからだ。同級生は幼稚園のころからよく知っている。小学校の時はたまに話していたが中学校では疎遠になった。高校に入って同級生と一度会ったが制服を見て、彼女とは違う世界にいることが分かった。私は母に強いられて入った男女共学の進学校。同級生とは深い溝しかできていない。それ以降会うのを避けた。彼女の両親と顔を合わせるのが億劫だ。しかし同級生の母親とユリの母はスーパーでよく顔を合わせているらしい。母から聞かされることでそれはよくわかっている。だから逃げられない。重い足取りで自動扉を抜け受付で予防接種に来た旨を話した。受付を済ませて黒光りしている椅子に座って少し待った。
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